中学校最後の大会、中体連。
県大会をかけた試合の前日。
息子は部活を休んで帰ってきた。
真っ青な顔をして、
話をすることさえ、つらいという様子で、
そのまま自分の部屋のベッドへ向かった。
「明日、試合なのに…。」
息子はぽつりとつぶやいた。
私はいつもの偏頭痛だと思った。
「よりによって、こんな時に!」
少しの苛立ちと焦り。
「きっと明日にはよくなる。」
そう願う。
だけど、あの日のように具合の悪そうな
息子を見るのは初めてで、
心配で、眠れないまま朝を迎えた。
祈るように迎えた朝
朝が来た。
いつもは自分から起きてくる息子が、
なかなか起きてこない。
アップには間に合わないけど、
ギリギリまで寝かしてあげよう。
それでも無理なら、諦めよう!
そんなふうに覚悟を決めて、
静かに息子が持っていく軽食を作る。
調子が悪くても食べやすいもの。
最近、ハマってる
スイカも、山盛り入れとこう!
少しでも食べられたらいい。
そう願っている間に、
試合の時間は刻一刻と近づいてきた。
やがて、2階で物音がして、
ゆっくりと息子が起きてきた。
息子の顔色を見て、
「無理かもしれない」
そう思った。
それでも息子は「行ける」
と、短く言った。
黙々と朝ごはんを食べて
ユニホームに着替えた。
偏頭痛の薬も飲んだ。
俺が行かなきゃ始まらないでしょ(笑)
青白い顔でそう笑って
車に乗り込むと
ロックな音楽をかけた。
「試合が始まっちゃえば、アドレナリンがバンバン出て、絶対大丈夫!」
そんなふうに根拠なんてないのに、
自信満々に言う息子に、
私もなんだか笑ってしまう。
「そうだね。」
私もそう言って、
いつものように送り出した。
心の中では
「どうか最後までグラウンドに立っていられますように」
それだけを願っていた。
そして、試合会場に着くと、
「さ、気合入れて行ってくる。」
そう言って、
仲間が待っているグラウンドへ
向かって行った。
最後までグラウンドに立った息子
いつものようにバッターボックスに立つ息子。
いつものルーティン。
バットでトントンと地面を2回。
真っ青な顔をしていた朝が嘘のように、
息子は真っ直ぐ堂々とかまえた。
「カキーン!」
打球はセンターを抜けた。
二塁へ向かって走る息子。
思わず立ち上がる。
「かっこいいな。うちの息子」
本気でそう思った。
そして、試合は終盤。
7回裏。
もうバットはほとんど振れなくなっていた。
ベンチからでもわかるほど。
「もう十分頑張ったよ」
私は何度も心の中でつぶやいていた。
それでも息子は最後まで
グラウンドを離れることはなかった。
中学校最後の夏は終わった
試合終了の合図。
仲間に支えられながら、
一列に並ぶ息子。
私はもう、
涙で滲んでその姿が見えなくなっていた。
帰り道、
青白い顔のまま車に乗り込んだ息子。
私が「大丈夫?」と聞く前に、
力が抜けていて、いい球打てたぜ!
この一言。
立っているのもやっとだったくせに
にやりと笑ってそんなこと言う。
そんな姿に、
私も思わず笑ってしまった。
「ねえ、スタバ寄ってよ!」
その一言に、
「さっきまであんなに具合が悪そうだったのに」
と、少しほっとした。
あの日の背中を忘れない
勝ち負けなんて関係なく、
最後までグラウンドに立ち、
大きな声をあげ続けた息子。
あの日、見送った青白く、
でも大きくてたくましい背中を
私は一生忘れない。
次は、高校のグラウンドを駆け回る日を信じながら。
→やっと見に行けた息子の中学野球|残り3か月で気づいた母の焦り
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